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20 刀(剣) (稲村ふみ)

written by 高木一

 想田家では年に何度か蔵の空気を入れ替える。中に収めてある物を出すことがほとんどなかったため、蔵の中に何が入っているのかふみは知らなかった。それは自分が仕えている麻紘も同じだったようで。蔵の中を見たいと、庭を散策しているときに言われたのが今回の虫干しのきっかけだった。

「お嬢様、中は物で狭くなっておりますから、お気をつけくださいませね。ふみのそばを離れてはなりませんよ」
「はぁーい!」

 小さな手を挙げ元気よく返事をする麻紘に、ふみは眦を下げた。

(まだ数えで五歳になったばかりですが、お嬢様はとても利発でいらっしゃる)
「わぁ、これなんだろう?」

 麻紘が手を伸ばす。麻紘の視線の先には、紅梅や白梅といった小花が散りばめられた懐剣(かいけん)があった。きっと見た目の可憐さに触れたくなったのだろう。ふみは危険なものがあるかもしれないと説明し忘れていた自分の思慮のなさを反省つつ急いで止めに入る。

「お嬢様危のうございます。触れてはなりません」
「危ないの?」
「これは懐剣と言いまして、嫁入り道具の一つなのですよ」
「懐剣? 剣なのこれ?」
「懐刀とも護り刀とも呼ばれるものでございます。きっと想田家へ嫁入りしたどなたかの物でしょう」
「そうなんだ。あ! あれは何? 書物のようだけど」

 説明を聞き終えると懐剣への興味はなくなったようだ。ふみは麻紘の切り替わりの早さに苦笑しながらも、刃を見せずに済んだことを安堵した。 

〈了〉

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19.声<須永園子(すながそのこ)>

written by 朝川 椛

 須永園子は未だに母の夢を見て飛び起きる時がある。
母は91歳でまだ健在である。
が、今の母が呼ぶのではなく、若い頃の母が自分を呼ぶ声に、ビクリとしてしまうのだ。

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テーマ : 小説
ジャンル : 小説・文学

19 声 (千葉みさを)

written by 高木一

 最近は気が付けばお腹にいる子供に話しかけている。話しかける内容は、天気のことだったり、夫のことだったりと他愛もないことが多い。今日もみさをがお腹を触りながら語り掛けていると、お臍あたりでニョロニョロと何かが動くような感覚を覚えた。

「え?」

 驚きのあまり、身体を固くしたままお腹を凝視していると義利が心配そうに声をかけてくる。

「お腹痛いのか?」
「いいえ、痛くはないの。ただ……」

 一瞬のことだったから確信は持てない。口ごもるみさをに、義利は首を傾けながら続きを促してくる。

「ただ?」
「お腹の赤ちゃんが動いたかも?」

 ついこの間、としやふみとそろそろ胎動を感じる頃だと話したばかりだった。まだ実感はわかないが、もしかしたら今のがそうなのかもしれない。みさをが自信なさげに告げると、義利の目が大きく見開かれた。

「え! 本当?」

 勢いよく駆け寄ってきた義利だったが、腹に耳をつける動作はゆっくりでみさをは頬を緩める。しかし残念ながら先ほど感じたものはすでになくなっていた。しばらく経っても音沙汰のない腹の様子に義利もしびれを切らしたのだろう。

「おーい。お父さんだぞ」

 みさをは一生懸命腹に話しかける夫の姿を眺めるこのひと時がとても幸せだと感じた。

〈了〉

18.桜<綾木涼(あやぎりょう)>

written by 朝川 椛

 綾木涼には、未だかつて一緒に桜を見たいと思った人間はいない。
自分の気持ちを揺り動かした女性は、新緑の季節であり、また五月雨の時節であった。

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テーマ : 小説
ジャンル : 小説・文学

18 桜 (岩崎とし)

written by 高木一

 としがいつものように桜の木の下で休憩していると、見知った顔を見つける。

「おみさちゃんじゃないか、どうしたんだい?」
「気分がいいのでお散歩です。以前からこの大きな木が何の木なのか気になっていて」

 立ち上がり彼女に近づくと、みさをがお腹をなでながら桜の木を見上げた。彼女と知り合ったのごく最近のことだ。妊娠からくる貧血のせいで道端でうずくまっているところを見つけたの始まりだ。自分よりもうんと若い彼女を見ていると娘を見ているようでなんだかほっておけなかったのだ。

「桜だったんですね」
「春にはそりゃ見事な花が咲くんだよ」
「そうなんですね」

 見てみたいなぁ、と言いながらずいぶんと目立ってきたお腹へ語り掛ける姿は母親そのもので。としはみさをへ笑みを向ける。

「花が咲く頃になったら家族3人で来てみたらいいさ」
「家族3人?」

 みさをがきょとんとした顔で首をかしげた。

「お腹の赤ちゃん、春にはもう生まれてるだろう」
「あ、そうですね。そっかずっとお腹の中にいるわけじゃないですもんね」

 みさをが愛おし気に腹をなでる。自分も昔はこうだったのだろうか。すっかり成長し大人になった子供たちを思い浮かべながら、としはみさをを見つめた。

〈了〉

プロフィール

やどりぎ

Author:やどりぎ
ようこそ、
こちらはオリジナル小説
サークル『宿り木』の小説ブログです。
メンバーの
朝川 椛(あさかわもみじ)
と高木 一(たかぎはじめ)の
2人で100のお題をお借りし、
オリジナル小説を書いています。

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