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06 指輪 (浩二&美加子)

written by 朝川 椛


休み時間。

購買で買ってきたリング型のスナック菓子を頬張っていたら、

想い人の美加子が嬉しそうに寄ってきた。

「1つちょうだい」

頷いて中身を見るが、残念ながら残りは1つ。

浩二は少し考え、

「左手、俺の前に立てて見せて」

とアルミの袋に手を突っ込みながら要求した。

「こう?」

訊きながら、目前に細く整った左手を翳してくる美加子。

その薬指へ、黄色いリング菓子をひょいと乗せる。

「何?」

怪訝な面持ちで尋ねてくる美加子に、

浩二は何気ない口調を装って答えた。

「予約」

気付くかな、と期待半分にさり気なく美加子の顔を窺う。

「ふうん」

美加子が目を瞬き、左薬指の爪の先に収まったスナック菓子を眺める。

そして、分かった、とちいさく頷き、

何の躊躇いもなく菓子をパクリと口に含んだ。

「え……」

「じゃあ、後でね」

微笑む美加子に心臓が早鐘を打つ。

「それって……」

席に座ろうと背を向ける美加子に声をかけると、

美加子はくるりとこちらを向いて、

「新しいの買ってきてくれるんでしょ? ありがとう」

お金は払うからさ、と笑う。

その爽やかな笑顔に乾いた笑いで応えながら、

浩二は自分の想いが届くまでの道程(みちのり)を思って、

溜め息をついた。

fin.
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12 見つけないで (ミケ&浩二&美加子)

written by 朝川 椛

ミケは逃げた。

自分には人間のご主人がメスとオスの2匹いる。

どちらに構われることも別段嫌いではないのだが。

時々無性に群れたくない時がある。今日などは特にそんな気分だった。

大体、オスご主人様はこの身体を撫で回し過ぎなのである。

せっかくの昼寝の機会を、これ以上邪魔されては適わない。

ミケは黒色の身体が目立たないよう庭の物置の影に隠れ、

これ幸いと丸くなった。


どれほど時が経っただろうか。

近くで何やら声が聞こえてきた。

ご主人たちだ。

ミケは耳をぴくぴくと動かして、2匹の会話に聞き耳を立てる。

「どこに行っちまったのかなあ、ミケ」

オスご主人のぼやく声が聞こえてきた。

「お前がちゃんと見てればさあ」

がさがさと植木をかき分ける音とともに、オスご主人のぼやきは続く。

するとそれを遮るように、今度はメスご主人の怒り声が飛んできた。

「なによ、それ! 大体、あんたがしつこく撫でるから
逃げちゃったんじゃない」

せっかくわたしと寛いでたのに、と文句を言うメスご主人へ、

オスご主人が大げさな溜め息をつく。

「わかってるよ。このネコ缶あげたらすぐ帰るっての」

「え……」

驚いた様子のメスご主人。

そんなメスご主人の呟きに、

ミケは伸びようとしていた身体をとっさに強ばらせた。

そろそろ出て行こうと思ってたんだけどなあ。

だが、どうやら自分はまだ、見つかってはいけないらしい。

色々うんざりはしたけれど、

なかなか素直になれないメスご主人のためなら仕方がないか。

会話はまだ続いていたが、もう興味はなくなった。

自分が見つかりさえしなければ、きっとまたいつものように

オスご主人が長居するのだろう。

ミケは首の鈴が鳴らないように注意しながら小さく欠伸をして、

またまどろみの中へと戻っていった。

fin.

16 フェンスの向こう側には (赤池透)

written by 朝川 椛

日曜日。

風邪を引いた妻に、

息子を連れて散歩がてら買い出しに行くと言って、

星野美加子が通う都立高校を訪れた。

嘘をついたことは心苦しいが、

どうしても気持ちがそちらに向いてしまう。

離れたフェンスからそっと彼女の様子を窺うと、

美加子は学校の裏側にある葉の落ちきった銀杏の木の下で、

仲間と練習に励んでいた。

真剣な表情、仲間と交わす笑顔。

どれもこれもが愛しすぎて、

透はフェンスを握る手を強くする。

するとそこへ、1人の男子生徒がやってきた。

「あ……」

それは以前、美加子を頼む、と託した少年だった。

たしか、名前は星岡浩二だったか。

美加子は浩二が訪れた途端、

見たこともないようなふくれっ面をして、浩二を怒鳴りつけた。

「そっか……」

もう大丈夫なのかもしれない。

彼ならきっと、美加子を幸せにしてくれる。

そう思うのは本心なのに、

足が縫い止められたかのようにぴくりとも動かない。

どうして、俺は……。

何処までも中途半端な自分に嫌気がさす。

と、腕の中で眠る子供が小さく身じろぎをした。

これが、現実。

透は瞳を閉ざし、ゆっくりとした動作でフェンスから手を離す。

そして、閉じていた瞳を開き、もう一度美加子を見つめた。

諦めなければいけない。それはわかっている。

だが……。

「好きだよ」

去り際に呟いた言葉は、吹き付ける冬の風にかき消され、

透の耳にさえ残ることはなかった。

fin.

38 視線の先 (美加子&ミケ)

written by 朝川 椛

午後9時55分。

美加子は1人炬燵で暖をとりながら、

前方にある物をじっと見据え唸った。

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52 走れ走れ何処までも (浩二&美加子)

written by 朝川 椛

「ねぇ、本当にこっちの道で合ってるの?」

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やどりぎ

Author:やどりぎ
ようこそ、
こちらはオリジナル小説
サークル『宿り木』の小説ブログです。
メンバーの
朝川 椛(あさかわもみじ)
と高木 一(たかぎはじめ)の
2人で100のお題をお借りし、
オリジナル小説を書いています。

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