04 視線 (沙耶&影)
written by 朝川 椛
チャイムが鳴った。
授業中にあった緊張感が霧散し、
休み時間特有のざわめきがクラス中に広がる。
沙耶は無言で教室を出て、早足で廊下を歩いた。
人気のない窓辺近くまで来ると、突如立ち止まる。
「ちょっと……」
振り返りもせず小さな声を上げると、
斜め後ろに短く伸びた影から返答があった。
「何? 私の名前、答える気になった?」
「見ないでよ。ついても来ないで」
「無理だよ。名前を当ててくれたら離れてあげるけど」
分かってるでしょう、と笑いの滲んだ声が返ってくる。
「これだけは譲れないの。ついて来ないで」
「なんで?」
心底不思議そうに尋ねる声に、沙耶の我慢は限界に達した。
「トイレに行きたいのよ!!」
叫ぶ沙耶。場が凍りついたように静まり返った。
「……あー…うん。分かった」
ばつが悪そうに答えて途切れる声。ほっとして一息ついた時、
周囲が遠巻きに自分を見つめていることに気がついた。
しまった。どうしよう。
固まっていると見知った顔の1人が、おずおずと声をかけてくる。
「……あの、トイレの清掃なら、終わってるわよ?」
「あ、うん。だよね」
引きつる筋肉を必死で動かし笑みの形を作りながら、
沙耶はそそくさとトイレに逃げ込んだ。
無事に用を足して教室へと戻る。
席に着くとすぐ、クラスメイトが神妙な面持ちで話しかけてきた。
「わかるよ〜、女性だもん。そういう週もあるよね」
「あー……」
顔面が引きつるのを自覚しつつ、
影に言ったのだとは、口が裂けても言えない沙耶だった。
fin.
チャイムが鳴った。
授業中にあった緊張感が霧散し、
休み時間特有のざわめきがクラス中に広がる。
沙耶は無言で教室を出て、早足で廊下を歩いた。
人気のない窓辺近くまで来ると、突如立ち止まる。
「ちょっと……」
振り返りもせず小さな声を上げると、
斜め後ろに短く伸びた影から返答があった。
「何? 私の名前、答える気になった?」
「見ないでよ。ついても来ないで」
「無理だよ。名前を当ててくれたら離れてあげるけど」
分かってるでしょう、と笑いの滲んだ声が返ってくる。
「これだけは譲れないの。ついて来ないで」
「なんで?」
心底不思議そうに尋ねる声に、沙耶の我慢は限界に達した。
「トイレに行きたいのよ!!」
叫ぶ沙耶。場が凍りついたように静まり返った。
「……あー…うん。分かった」
ばつが悪そうに答えて途切れる声。ほっとして一息ついた時、
周囲が遠巻きに自分を見つめていることに気がついた。
しまった。どうしよう。
固まっていると見知った顔の1人が、おずおずと声をかけてくる。
「……あの、トイレの清掃なら、終わってるわよ?」
「あ、うん。だよね」
引きつる筋肉を必死で動かし笑みの形を作りながら、
沙耶はそそくさとトイレに逃げ込んだ。
無事に用を足して教室へと戻る。
席に着くとすぐ、クラスメイトが神妙な面持ちで話しかけてきた。
「わかるよ〜、女性だもん。そういう週もあるよね」
「あー……」
顔面が引きつるのを自覚しつつ、
影に言ったのだとは、口が裂けても言えない沙耶だった。
fin.
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