19 嫉妬 (雅秋)

 会合が終わり疲れて家へ帰宅すると、

末弟の涼介が台所から出てきたところだった。

「おかえりなさい、雅秋兄さん」

 決まり悪げに挨拶をしてくる涼介へ、ああ、と流して、問いかける。

「どうした? こんな時間に」

「はあ、ちょっと小腹が空いたもので……」

視線を逸らして答える涼介に眉を顰めていると、

台所から妻の美紀が出てきた。

「おかえりなさい、あなた。ちょうどよかったわ。

今涼介さんに教わってお夜食を作っていたところだったんです」

 早く召しあがってみてくださいな、とが嬉しげな笑顔を向けてくる。

(また、涼介さんに、か……)

 この家の人間はみな、二言目には「涼介」の名をだす。

もちろん自分も例外ではないのだが、

妻や娘からその名を聞くのはあまり気分のいいものではない。

「何もわざわざお前が作る必要もないだろう」

 軽く嫌味を含めると、妻は目を瞬かせてきた。

「あら。疲れて帰ってらっしゃる旦那さまのために何かしたいと思うのは、

妻として当然のことじゃありません?」

 小首をかしげ、ねえ、と涼介へ同意を求める妻を眺めながら、

雅秋は溜め息をつく。

「まあ、いい。……着替えてくる」

「はい」

 頷いてくる美紀から視線を逸らすこちらをよそに、

妻の楽しげな鼻歌が夜の廊下に小さく響き渡った。


                            fin.
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やどりぎ

Author:やどりぎ
ようこそ、こちらはオリジナル小説サークル『宿り木』の小説ブログです。
メンバーの朝川 椛(あさかわもみじ)と高木 一(たかぎはじめ)の2人で100のお題をお借りし、
オリジナル小説を書いています。

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