30 鏡 (狼谷朔夜)

 朔夜が洗濯物を取りに洗面所へ向かっていたときだ。

目的地の方から鼻歌が聞こえてきた。

しかもラブソングだ。

父はすでに外出しているため、

家にいるのは自分と息子の満くらいしかいない。

だが、満らしからぬ選曲に、

朔夜は首をかしげながら音のする方へと進んだ。

「よしっと、今日はちゃんとキメて行かないとだからな」

 やはり鼻歌を口ずさんでいたのは満だったようだ。

洗面台の鏡に向かって、髪型を整えていた。朔夜は目を見開く。

「あ、あんた、何その頭」

 ウニのトゲのように髪を尖らせ、四方に立たせていた。

それはまるでコントなどでよく見る、科学者が実験に失敗し、

頭を爆発させたよう髪型と瓜二つで。

 朔夜が、噴き出しそうになるのを必死で抑えていると、

満がこちらを振り返った。

「どうだ? ビシッとキマッてるだろう」

 自信満々にポーズをとる息子の姿に我慢できなくなり、

朔夜は自室へと走りだした。

部屋へ入るや、ベッドに突っ伏して笑いだす。

(何、あの頭! おもしろすぎる)

 しばらくして、

腹痛を伴う笑いから解放された朔夜は、我に返った。

「もしかして、あの子あれで出掛けるのかしら?」

 一気に血の気がさがる。慌てて洗面所へ戻ったが、

そこにはすでに満の姿はなかった。

(了)
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やどりぎ

Author:やどりぎ
ようこそ、こちらはオリジナル小説サークル『宿り木』の小説ブログです。
メンバーの朝川 椛(あさかわもみじ)と高木 一(たかぎはじめ)の2人で100のお題をお借りし、
オリジナル小説を書いています。

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