32 自傷行為 (狼谷朔太郎)

「あいつは何もわかっとらん」

 定例の長老会が始まるとともに、

朔太郎は出された煎餅をバリバリと音を立てて食べ始めた。

八つ当たりするかのように食べているこちらを、

心配そうにムササビの野臥間邦夫とウグイスの鶯木麗が見ている。

「黄金梅の恩恵で今がある、ング」

 怒りが収まらず、煎餅を食べながら、気持ちを吐露する。

「この市で人間を敵とみなし傷つけることは、
獣人たちを傷つけることと同じ意味を持つ。それを満の奴は……」

 あっという間に自分の分の煎餅を食べ終えてしまった。

朔太郎が、ちらりと二人の煎餅に目を向ける。

すると麗が煎餅を、一緒に出された湯のみで隠す。

そして何事もなかったかのように口を開いた。

「人間との接触を禁じてから生まれた、今の子たちには、
わからないのかもしれないわね」

「他の獣人ならまだ許されるかもしれんが、満は長だ。
その満が率先となってしまうなど……
わしは情けなくては涙が出てきそうじゃ」

 麗の言葉に朔太郎は、邦夫の煎餅を見つめながら反論した。

「朔ちゃん、そう気を落とすな。まだこちら側の獣人も大勢いる」

 邦夫がそっとこちらへ煎餅を差しだした。朔太郎の頬が緩む。

「そうよ。ちゃんと話をすれば、きっとわかってくれるわ」

 麗も邦夫に倣い、渋々といわんばかりに、

隠したはずの煎餅をこちらへ差しだしてくる。

朔太郎は、そうだな、と呟き二人から譲って貰った煎餅を貪った。

(了)
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やどりぎ

Author:やどりぎ
ようこそ、こちらはオリジナル小説サークル『宿り木』の小説ブログです。
メンバーの朝川 椛(あさかわもみじ)と高木 一(たかぎはじめ)の2人で100のお題をお借りし、
オリジナル小説を書いています。

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