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33 王 (文兎)

 秋雅に呼ばれ出向いた場所は、小さな市民センターだった。

躊躇いがちに中へ入るが、そこに秋雅の姿はなく、

代わりに秘書の吉田がいた。

「何をやっているんです?」

 文兎が尋ねると、文庫本から顔をあげ吉田が微笑む。

「詰め将棋です。王をどうにか逃したいと思っているのですが、

何事も逆手に考えるのは難しいですね」

 吉田の言葉に文兎は深々と頷いた。

「……なるほど……」

 つまり、自らの王、秋雅をたてるには、

まだまだ時間がかかるということか。

文兎は深々と頷き、マイクロSDを差しだす。

「いくらかのお役に立てればいいのですが」

「ありがとうございます」

 カードを受けとり、吉田が満足げに口元をほころばせた。

文兎は、一礼して颯爽と去っていく吉田の後ろ姿を眺めながら、

溜め息をつく。自分はあの秘書より必要とされているのだろうか。

秋雅にとっての存在意義を、思わずにはいられなかった。

                              fin.
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Author:やどりぎ
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