37 色 (雅秋)

 「おとうちゃま!」

 呼ばれて振り返ると、由真が笑顔で駆け寄ってくるのが見えた。

「由真ね、お絵かきしたの!」

 青いクレヨンを持ちながら抱きついてくる愛娘を、

雅秋は抱きあげる。

「どんな絵を描いたんだい?」

 口の端をほころばせて尋ねると、由真は窓の外を指さした。

「お空!」

「ほう、それはすごいな」

 心から感嘆の声をあげ、

由真を抱きあげたまま彼女の部屋へ向かう。

いったいどんな空を描いたのだろう。

夢想しながらふと廊下の障子へ目をやり、思考が停止した。

「由真……。もしかして、これか?」

 青いクレヨンで丹念に塗りこまれ、

ところどころ破れそうになっている障子を眺めながら、

雅秋は尋ねる。

「うん! きれいでしょ!」

 邪気のない日の光のような笑顔を向けられ、

雅秋は頷く。

「あ、ああ……。そうだね……」 

 これはやはり怒るべきだろうか。いや、だが……。

 逡巡しているその前方から、

妻の娘を呼ぶ金きり声がきこえてきていた。

                           fin.
スポンサーサイト
プロフィール

やどりぎ

Author:やどりぎ
ようこそ、こちらはオリジナル小説サークル『宿り木』の小説ブログです。
メンバーの朝川 椛(あさかわもみじ)と高木 一(たかぎはじめ)の2人で100のお題をお借りし、
オリジナル小説を書いています。

カテゴリ
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR