48 刻印 (狼谷満)

 意味もなく山の中を歩いていた満の目に、

死んだはずの灰人の姿が映った。

しかも、自分が知らないはずの、事故現場の風景だ。

 目の前で、灰人が倒れてくる木から子供を守るために、

その子を突き飛ばした。

夢だとわかってはいても、彼を助けようと走り出す。

しかし、身体が鉛のように重たくて一向に近づけない。

満は、灰人が倒木の下敷きにされていく様を、

ただ見ていることしかできなかった。

「灰人ー!」

 自分の叫び声で目が覚めた。

やはり夢だったのだ。

頬をつたう冷や汗を、着ているシャツで拭う。

「わかってるさ、灰人。人間を許すわけにはいかないんだ」

 自分の心に迷いが生じたのを、灰人が見破ったに違いない。

だからこそ、こんな夢を見たのだろう。

満は、まだ早鐘のように鳴っている鼓動を聞きながら、

胸に刻みこむように呟いた。

(了)
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やどりぎ

Author:やどりぎ
ようこそ、こちらはオリジナル小説サークル『宿り木』の小説ブログです。
メンバーの朝川 椛(あさかわもみじ)と高木 一(たかぎはじめ)の2人で100のお題をお借りし、
オリジナル小説を書いています。

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