73 不可思議 (雅秋)

 夜の10時を回った頃、

やっと帰宅の途についた雅秋は玄関で大の字になった。

今日は妻が弟の妻とともに旅行で不在のため、

家にいるのは自分と娘、それから弟たちだけである。

なにを装うこともなくゆっくりできるともなれば、

少々だらしなくなってもよいはずだ。

だが、しばらく身動きせずに天井を眺めていると、

横合いから声がかかった。

「佐々倉さん?」

 驚いてとっさに身を起こすと、無言でトマトジュースを

さしだしてくる佐々倉武(ささくらたけし)の姿があった。

「なぜこれを?」

 目をしばたたきながら尋ねると、

佐々倉は表情を変えず淡々と言葉を紡いでくる。

「お飲みになりたいのではないかと思いまして」

 違いましたか、と問いかけてくる佐々倉へ頷きながら、

妻でも気づかない自分の好みを熟知しているらしい佐々倉へ

畏怖を感じずにはいられなかった。

                            fin.
スポンサーサイト

テーマ : 自作小説(ファンタジー)
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

やどりぎ

Author:やどりぎ
ようこそ、こちらはオリジナル小説サークル『宿り木』の小説ブログです。
メンバーの朝川 椛(あさかわもみじ)と高木 一(たかぎはじめ)の2人で100のお題をお借りし、
オリジナル小説を書いています。

カテゴリ
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR