1.月<須永由江(すながゆきえ)>
written by 朝川 椛
月を見ると彼のことを思い出す。
それはどんな月でもだ。
死んだ、自分の恋人、平岩文人(ひらいわふみと)。
自分の愛しい人が自分のことを好きだと言ってくれた時は確か三日月だった。
月を見ると彼のことを思い出す。
それはどんな月でもだ。
死んだ、自分の恋人、平岩文人(ひらいわふみと)。
自分の愛しい人が自分のことを好きだと言ってくれた時は確か三日月だった。
でも彼は本当に自分のことを好きだったのだろうか。
彼は民族学に精通していた。
研究員だった彼が追いかけていたのは、八百比丘尼。
その子孫だという自分に、彼は自身の偶像を追いかけていたのかもしれない。
彼が亡くなったのは五月雨の降る頃だったけれど。
「好きだ」と夢見るように告げてくれた夜を由江は忘れない。
忘れたくない。
それなのに……。
あの人が心の片隅にするりと入り込んでくる。
意識したくないのに。
綾木涼(あやきりょう)。
彼は愛しい文人を殺した加害者なのに。
綾木の車に文人は轢かれたのに。
いや……。
「本当の加害者は私……」
自分の嘘を信じて、文人は死に向かって一歩を踏み出し、
綾木の車へ躍り出た。
綾木は本当は被害者なのだ。
「どうしたらいいの……」
それでも許せない。
そう思えたらよかったのに。
「助けて」
……助けて綾木さん!
そう思う己の弱さに吐き気を催しつつ、由江は今日も月を見あげる。
END
彼は民族学に精通していた。
研究員だった彼が追いかけていたのは、八百比丘尼。
その子孫だという自分に、彼は自身の偶像を追いかけていたのかもしれない。
彼が亡くなったのは五月雨の降る頃だったけれど。
「好きだ」と夢見るように告げてくれた夜を由江は忘れない。
忘れたくない。
それなのに……。
あの人が心の片隅にするりと入り込んでくる。
意識したくないのに。
綾木涼(あやきりょう)。
彼は愛しい文人を殺した加害者なのに。
綾木の車に文人は轢かれたのに。
いや……。
「本当の加害者は私……」
自分の嘘を信じて、文人は死に向かって一歩を踏み出し、
綾木の車へ躍り出た。
綾木は本当は被害者なのだ。
「どうしたらいいの……」
それでも許せない。
そう思えたらよかったのに。
「助けて」
……助けて綾木さん!
そう思う己の弱さに吐き気を催しつつ、由江は今日も月を見あげる。
END
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