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5 人形 (八巻アカネ)

written by 高木一

「ふふふ」
「急に笑ったりしてどうしたのお母様?」

 芝居を観に行った帰りに立ち寄った実家で、母、多部菊花(たべきっか)とお茶をしているとふいに母が笑い出した。その手には土産として持ってきた人形焼きがある。吹き出したくなるほどおかしな顔の人形焼きを手に取ったのだろうか。アカネは菊花を見つめた。

「ごめんなさないね、これ見ていたら思い出してしまって」
「何を?」

 母が見せてきたのは七福神の顔を模したものだが、吹き出すほどひどい顔はしていない。アカネは首をかしげた。

「昔、お父様が人形焼きをお土産にくださったときにアカネさんったら、お父様だけお芝居を観に行ってずるいですわ! なんて言って怒ったことがありましたのよ」

 思い出し笑いをこらえながら語られた母の言葉に、アカネは目を瞠る。

「私が? まったく覚えてないわ。いくつくらいのとき?」
「あれは七五三を迎えたばかり頃でしたから、七歳ですわね。アカネさんったらいくらお父様が貰い物だとおっしゃってもなかなか信じてくれなかったのですよ」

 確かに今日だって歌舞伎を観た帰りに人形焼きを買ってこちらへきたのだ。幼い頃も人形芝居を観に行った帰りはやはり今日のように人形焼きを買って帰っていた。だから人形焼きを見て、幼い自分はお芝居を観に行った帰りだと思い込んだのだろう。きっと一人だけ楽しんだ父親に対し、なぜ一緒に連れていってくれなかったのかと責めたに違いない。

「七歳でも私は、私なのね」
「頬を膨らませて怒るアカネさんの姿にお父様はタジタジでしたのよ」

 楽しげに笑いながら母が人形焼きを食べる。予想通りの答えに、アカネも弁財天の顔を模した人形焼きをかじった。

〈了〉

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