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5.人形<須永由江(すながゆきえ)>

written by 朝川  椛


 幼い頃、母の園子に人形を強請ったことがある。
それは子供から大人にまで人気の、立体型着せ替え人形だった。
長い髪にスレンダーなその人形を見た瞬間、欲しくて堪らなくなった。
だが、どんなに頼み込んでも母は買ってくれなかった。
「もっと可愛らしい方がお人形さんっぽいと思わない?」
 園子は優しい声でそんなことを言う。
覗き込むようにその面を眺めるが、微笑みしか見つけることができなかった。
結局、由江は人形を諦めることにした。
いや、確かに自分でいらないとは言った。
だが、今にして思えば、そう言い出すよう上手く誘導されたのではないかと思っている。

 園子はただ道を狭めただけ。塞いだ訳ではない。
それが由江には恐ろしかった。
そんな時、「俺が君を自由にしてあげる」と言ってくれて男がいた。
平岩文人だ。
由江は彼が差し出してきた細い糸をしゃにむに引っ掴んだ。
だが、その結果、自分はまた別の檻の中にいるような気がしてしまっている。
「人形は私なんだ……」
 呟いた声は、冬の強風によって無情にもかき消された。


                                             了
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こちらはオリジナル小説
サークル『宿り木』の小説ブログです。
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と高木 一(たかぎはじめ)の
2人で100のお題をお借りし、
オリジナル小説を書いています。

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