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8 海 (千葉みさを)

written by 高木一

 風もない穏やかな日差しの中、千葉みさをは夫とともに波打ち際を歩いていた。手には以前、夫からもらった縁部分にレースがついた象牙色の日傘を差している。海辺に家があるおかげで、浜辺での散策は休日の定番になっていた。だが、そんな日常ももう少ししたらできなくなる。

「この景色も当分見納めかぁ」

 自分の気持ちを代弁するかのように義利が嘆息交じりに呟いた。みさをは夫の顔を仰ぎ見る。

「東京へ栄転なのですから喜ばしいことですよ」
「そうなんだけどさ。東京に行ったらみさをは家で一人の時間が増えちゃうだろう?」

 夫は引っ込み思案な自分の性格をよく理解してくれていた。今までは夫の両親と同居しているおかげで近所づきあいもできているが、東京へ行ったらそれを一人でこなさなければならない。義利はそれを心配しているのだろう。

「だ、大丈夫ですよ」
「本当に? 無理してない?」
「で、でも義利さん一人で東京へ行かせるわけにはいきません。私はあなたの妻なんですから」

 みさをは、自分にしては珍しく大きめの声を出し言い切った。そのときだ。突然、視界が暗くなる。

「みさをー!」

 どうやら義利に抱きしめられているらしい。みさをは恥ずかしさのあまりに夫の腕から抜け出そうともがいた。しかし、感極まっている義利の力は思いのほか強く、中々抜け出すことができない。

「放してください義利さん! 破廉恥ですよ」
「俺は幸せもんだぁ!」

 義利が幸せそうに叫ぶ。夫からの好意に、みさをは羞恥心を忘れ頬を緩めた。

〈了〉

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