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8.海<須永いすず>

written by 朝川 椛

 須永いすずは幼い頃から海に囲まれた場所で暮らしてきた。
ここ隠岐島に伝わる伝説とともに。
それこそ何百年もの昔から、いすずの家は海とともにあった。

 八百比丘尼(はっぴゃくびくに)の家。
他人(ひと)は自分たち一族をそう呼ぶ。
いすず自身も、そう言われて育ってきた。

 自分たちの祖先は、この島から海を渡って小浜市へ移り住んだのだ、と。
そこで愛しき人を想い、祈り続けて生涯を終えたのだ、と。

 海を渡った祖先の気持ちはいすずには分からない。
長生きをした祖先は、小浜市でたくさんの弟子を持った。
そして、祖先の死後、日本中に散っていった。
だが、いつの間にか話が変化してしまった。
弟子たちが行脚していった場所は、
八百比丘尼(やおびくに)が訪れた場所として、長く言い伝えが残っている。

「人魚の肉を食べたから八百歳生きてきた一族、なんてねぇ。話が大きくなり過ぎだよ。
確かに我が一族は長生きの家系だけど、ただそれだけなんだから。わかるね、由江」
「はい。いすずお祖母ちゃん」
「流れている血は特別なんかじゃない。ただの人だ。それを忘れちゃいけないよ」
「はい」

 孫娘は真剣な目で頷いたが、いすずの不安は消えなかった。
この子は憧れている。
恋のために海を渡った祖先がいたことに。

「お前はこの家を守っていくんだよ。そうすれば、海がお前のことを守ってくれるからね」

 言い聞かせてはみたものの、きっと徒労に終わるだろう。
眩しく輝く孫娘の瞳に見つめられながら、いすずは内心で嘆息するほかなかった。


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Author:やどりぎ
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サークル『宿り木』の小説ブログです。
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2人で100のお題をお借りし、
オリジナル小説を書いています。

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