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9 無人島 (八巻アカネ)


written by 高木一

「この本、正三(しょうぞう)さんも持っていたのね」

 アカネは夫の本を手に取る。それは数年前、ハトコの想田麻紘(そうだまひろ)が読んでいた本と同じものだった。
 船に乗った少年たちが座礁し遭難する話で、読み終えたばかりの麻紘が本を胸に抱えキラキラした瞳で訊いてきたことを思い出す。

「姉様だったら無人島へ行ったら何をする?」

 三つ下のハトコの無邪気な質問に、アカネは眉をしかめた。

「無人島? なんで私がそんなところへ行かないといけないのよ。嫌よ。だって無人島って何もないんでしょう?」
「何もないわけじゃないわよ。乗ってきた船の中には食糧もあるし寝具だって武器だってあるんだから」
「なぁにそれ? 観光ってこと?」
「違うわよ! 遭難しちゃうの船で航海中に」
「えぇ! 嫌よそんなの!」

 遭難なんて命の危険にかかわることではないか。アカネは頓狂な声をあげ顔を振った。

「だってそういうお話なんだもの」

 口を尖らせながら麻紘が本を突き出し、表紙を見せてきた。明らかに少年が読みそうな題名にアカネは首をひねる。

「どこで見つけてきたのよその本」
「女学校の図書館」
「……それで? 麻紘だったら何をしたいの?」

 自分は無人島へ行くことなど想像もしたくないが、麻紘は違うのだろうか。妹のように可愛がっている娘が消沈してしまった。アカネは大人げなかったなと反省し、自分へ訊いてきたものと同じ問いを麻紘へ返すのだった。

〈了〉

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