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10 時計 (想田荊芥)

written by 高木一

「ただいまぁ」

 想田荊芥(そうだけいがい)は画材道具を脇へ置き、上り框に腰を下ろした。気分転換とばかりに近所を散策することはいつものことなのに、今日に限ってなぜか娘に出迎えられる。

「お帰りなさい父様。遅かったね。筆が進んだの?」
「え? いつも通りだろう?」

 玄関から差し込む日差しはまだ明るい。何か用事でもあったのだろうか。そんな約束はしていなかったはずだが。荊芥は首をかしげた。

「いつもより遅いわ」

 ため息交じりの麻紘に、荊芥は懐から懐中時計を取り出した。真鍮の懐中時計の蓋を開けると、黒い時計の針は家を出たときと同じ、午後2時を差したままで止まっていた。

「あぁ……朝、ネジを巻くの忘れてたみたいだ」
「ネジの巻き忘れなんて父様らしいんだから。もうお夕飯の時間だからね」

 言うや麻紘は踵を返し台所へと戻って行った。

「もうそんな時間だったのか。参ったな」

 4時くらいだと思っていたのだが、夕飯の時間ということは6時近いのだろう。娘のことだ。帰りが遅い自分を心配していたに違いない。

(あとできちんと謝らないとなぁ)

 荊芥は心の中で反省を口にしながら、懐中時計のぜんまいを回した。

〈了〉

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