15 テーマパーク (小山八十八)
written by 高木一
それは小山が書類整理に勤しんでいる時だった。凝り固まった体をほぐすべく腕を伸ばすと、向いに座っている同僚の先輩が声をかけてきた。
「この間さ、婚約者と凌雲閣へ行ってきたんだよ」
「凌雲閣って、浅草の?」
凌雲閣といえば、浅草で最も高い建造物だ。名前のごとく「雲を凌ぐほど高い」らしい。営業先でも話題にのぼるほど有名だから名前だけは知っている。
「そう。電動エレベーターってやつ? あれはすごかったぜ。8階まで1分くらいで行けるんだぜ」
我が物顔で話す先輩に小山は目を見開いた。建造当初から電動エレベーターはあったが、度重なる故障のせいで停止していたはずだ。それが稼働するようになっていたなんて知らなかった。
「すごいですね。僕もエレベーターに乗ってみたいです」
仕事に慣れていない自分では早々に行くことはできないが、いつかは行ってみたい。小山はエレベーターに思いを馳せた。
「お前も婚約者でもができたら行ってみたらいいよ」
「こ、婚約者なんて、僕には当分無理ですよ」
小山は頓狂な声をあげた。激しく首を左右に振ると、先輩が口を開けて笑う。
「わからないぞ。お前みたいな奴はすぐにできたりするもんだ」
「そ、そうですかねぇ」
まったく想像もつかない話だ。小山は断言する先輩の言葉が信じられず、首をひねりながら襟足へ手を当てた。
〈了〉
それは小山が書類整理に勤しんでいる時だった。凝り固まった体をほぐすべく腕を伸ばすと、向いに座っている同僚の先輩が声をかけてきた。
「この間さ、婚約者と凌雲閣へ行ってきたんだよ」
「凌雲閣って、浅草の?」
凌雲閣といえば、浅草で最も高い建造物だ。名前のごとく「雲を凌ぐほど高い」らしい。営業先でも話題にのぼるほど有名だから名前だけは知っている。
「そう。電動エレベーターってやつ? あれはすごかったぜ。8階まで1分くらいで行けるんだぜ」
我が物顔で話す先輩に小山は目を見開いた。建造当初から電動エレベーターはあったが、度重なる故障のせいで停止していたはずだ。それが稼働するようになっていたなんて知らなかった。
「すごいですね。僕もエレベーターに乗ってみたいです」
仕事に慣れていない自分では早々に行くことはできないが、いつかは行ってみたい。小山はエレベーターに思いを馳せた。
「お前も婚約者でもができたら行ってみたらいいよ」
「こ、婚約者なんて、僕には当分無理ですよ」
小山は頓狂な声をあげた。激しく首を左右に振ると、先輩が口を開けて笑う。
「わからないぞ。お前みたいな奴はすぐにできたりするもんだ」
「そ、そうですかねぇ」
まったく想像もつかない話だ。小山は断言する先輩の言葉が信じられず、首をひねりながら襟足へ手を当てた。
〈了〉
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