16 Mission (多部菊花)
written by 高木一
日曜日の昼下がり。休日といえどいつも仕事で忙しい夫、一郎が今日は家にいる。この機会を逃す手はない。菊花はここ最近思い悩んでいたことを一郎に相談することにした。
「あなた、あなたのお知り合いの中に結婚相手を探している方はいらっしゃらないかしら?」
新聞を読んでいた夫の柔和な瞳がこちらを向く。
「結婚相手? アカネはもう結婚しているが?」
「麻紘さんのお相手ですわ」
菊花は意気揚々と告げた。一郎が口を開け、呆ける。しかしすぐに我に返ったようだ。
「麻紘ちゃんって、たしか十五歳になるかならないくらいだろう? 少し早くないかな?」
「そのようなことはございませんわ。アカネさんの時も15歳で正三さんとお見合いをなさっていますのよ」
間髪入れずに言い返すと、一郎の眉が八の字に下がる。
「それはそうだけど。アカネの場合はうちの会社とあちらの会社の繋がりを強固にするための理由もあったじゃないか」
麻紘はすっかり寂れてしまった想田家の娘だから見合いなど必要ない。そう夫は言いたいのだろうか。確かに漢方医だった祖父の時代と違い想田家は昔のような栄華はない。だが、ペストで幼かった娘や身内が次々と儚くなってしまった時に自分は決意したのだ。生き残ってくれた親族だけは何があっても守る、と。何より、麻紘の母である百合に麻紘のことを託されたのだ。菊花はしぶる一郎に啖呵を切る。
「私には、百合さんにできなかったことを麻紘さんにするという使命がございますのよ」
「それがお見合い相手を見つけるってこと?」
「そうですわ。それに荊芥さんはこういうことに疎いでしょう?」
トンと世情には疎い麻紘の父、荊芥。従弟だが弟のような存在である荊芥のほほ笑む姿が脳裏をよぎる。
「荊芥さんの分も私が麻紘さんのお相手を探すのですわ!」
「仕方ないねぇ。君には敵わないよ」
一郎のため息交じりに了承に、菊花は顔を綻ばせた。
〈了〉
日曜日の昼下がり。休日といえどいつも仕事で忙しい夫、一郎が今日は家にいる。この機会を逃す手はない。菊花はここ最近思い悩んでいたことを一郎に相談することにした。
「あなた、あなたのお知り合いの中に結婚相手を探している方はいらっしゃらないかしら?」
新聞を読んでいた夫の柔和な瞳がこちらを向く。
「結婚相手? アカネはもう結婚しているが?」
「麻紘さんのお相手ですわ」
菊花は意気揚々と告げた。一郎が口を開け、呆ける。しかしすぐに我に返ったようだ。
「麻紘ちゃんって、たしか十五歳になるかならないくらいだろう? 少し早くないかな?」
「そのようなことはございませんわ。アカネさんの時も15歳で正三さんとお見合いをなさっていますのよ」
間髪入れずに言い返すと、一郎の眉が八の字に下がる。
「それはそうだけど。アカネの場合はうちの会社とあちらの会社の繋がりを強固にするための理由もあったじゃないか」
麻紘はすっかり寂れてしまった想田家の娘だから見合いなど必要ない。そう夫は言いたいのだろうか。確かに漢方医だった祖父の時代と違い想田家は昔のような栄華はない。だが、ペストで幼かった娘や身内が次々と儚くなってしまった時に自分は決意したのだ。生き残ってくれた親族だけは何があっても守る、と。何より、麻紘の母である百合に麻紘のことを託されたのだ。菊花はしぶる一郎に啖呵を切る。
「私には、百合さんにできなかったことを麻紘さんにするという使命がございますのよ」
「それがお見合い相手を見つけるってこと?」
「そうですわ。それに荊芥さんはこういうことに疎いでしょう?」
トンと世情には疎い麻紘の父、荊芥。従弟だが弟のような存在である荊芥のほほ笑む姿が脳裏をよぎる。
「荊芥さんの分も私が麻紘さんのお相手を探すのですわ!」
「仕方ないねぇ。君には敵わないよ」
一郎のため息交じりに了承に、菊花は顔を綻ばせた。
〈了〉
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