18.桜<綾木涼(あやぎりょう)>
written by 朝川 椛
綾木涼には、未だかつて一緒に桜を見たいと思った人間はいない。
自分の気持ちを揺り動かした女性は、新緑の季節であり、また五月雨の時節であった。
綾木涼には、未だかつて一緒に桜を見たいと思った人間はいない。
自分の気持ちを揺り動かした女性は、新緑の季節であり、また五月雨の時節であった。
彼女と桜の話をした記憶はないし、
あっという間に過ぎ去ってしまった彼女を想うのもまた、桜を眺める季節ではない。
だからと言って、桜が嫌いだとかそういうことでもなく、
こうして夜桜の下をそぞろ歩くのはこの上もなく心躍ることだとも思っていた。
「ねえ、叔父さん。桜見るだけ? たこ焼き買ってもいい?」
出店を指さしながら小首を傾げてくるのは、甥っ子の和彦だ。
見ると夜祭という訳ではないのだろうが、ちらほらと出店が並んでいた。
「いいよ。半分ずつ食べようか」
「うん!」
微笑むと、少年は嬉しそうにはしゃぎだした。
「また兄さんたちに叱られるかなあ」
肩を竦めつつも、涼は晴れやかな気持ちで甥っ子を追いかけた。
了
あっという間に過ぎ去ってしまった彼女を想うのもまた、桜を眺める季節ではない。
だからと言って、桜が嫌いだとかそういうことでもなく、
こうして夜桜の下をそぞろ歩くのはこの上もなく心躍ることだとも思っていた。
「ねえ、叔父さん。桜見るだけ? たこ焼き買ってもいい?」
出店を指さしながら小首を傾げてくるのは、甥っ子の和彦だ。
見ると夜祭という訳ではないのだろうが、ちらほらと出店が並んでいた。
「いいよ。半分ずつ食べようか」
「うん!」
微笑むと、少年は嬉しそうにはしゃぎだした。
「また兄さんたちに叱られるかなあ」
肩を竦めつつも、涼は晴れやかな気持ちで甥っ子を追いかけた。
了
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