19 声 (千葉みさを)
written by 高木一
最近は気が付けばお腹にいる子供に話しかけている。話しかける内容は、天気のことだったり、夫のことだったりと他愛もないことが多い。今日もみさをがお腹を触りながら語り掛けていると、お臍あたりでニョロニョロと何かが動くような感覚を覚えた。
「え?」
驚きのあまり、身体を固くしたままお腹を凝視していると義利が心配そうに声をかけてくる。
「お腹痛いのか?」
「いいえ、痛くはないの。ただ……」
一瞬のことだったから確信は持てない。口ごもるみさをに、義利は首を傾けながら続きを促してくる。
「ただ?」
「お腹の赤ちゃんが動いたかも?」
ついこの間、としやふみとそろそろ胎動を感じる頃だと話したばかりだった。まだ実感はわかないが、もしかしたら今のがそうなのかもしれない。みさをが自信なさげに告げると、義利の目が大きく見開かれた。
「え! 本当?」
勢いよく駆け寄ってきた義利だったが、腹に耳をつける動作はゆっくりでみさをは頬を緩める。しかし残念ながら先ほど感じたものはすでになくなっていた。しばらく経っても音沙汰のない腹の様子に義利もしびれを切らしたのだろう。
「おーい。お父さんだぞ」
みさをは一生懸命腹に話しかける夫の姿を眺めるこのひと時がとても幸せだと感じた。
〈了〉
最近は気が付けばお腹にいる子供に話しかけている。話しかける内容は、天気のことだったり、夫のことだったりと他愛もないことが多い。今日もみさをがお腹を触りながら語り掛けていると、お臍あたりでニョロニョロと何かが動くような感覚を覚えた。
「え?」
驚きのあまり、身体を固くしたままお腹を凝視していると義利が心配そうに声をかけてくる。
「お腹痛いのか?」
「いいえ、痛くはないの。ただ……」
一瞬のことだったから確信は持てない。口ごもるみさをに、義利は首を傾けながら続きを促してくる。
「ただ?」
「お腹の赤ちゃんが動いたかも?」
ついこの間、としやふみとそろそろ胎動を感じる頃だと話したばかりだった。まだ実感はわかないが、もしかしたら今のがそうなのかもしれない。みさをが自信なさげに告げると、義利の目が大きく見開かれた。
「え! 本当?」
勢いよく駆け寄ってきた義利だったが、腹に耳をつける動作はゆっくりでみさをは頬を緩める。しかし残念ながら先ほど感じたものはすでになくなっていた。しばらく経っても音沙汰のない腹の様子に義利もしびれを切らしたのだろう。
「おーい。お父さんだぞ」
みさをは一生懸命腹に話しかける夫の姿を眺めるこのひと時がとても幸せだと感じた。
〈了〉
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