20.刀(剣)<綾木龍彦(すながたつひこ)>
written by 朝川 椛
綾木家は金はないがそこそこ古い家柄である。
だから父母から託された物の中に、
古美術品のような物がいくつか混じっているのは覚悟していた。
綾木家は金はないがそこそこ古い家柄である。
だから父母から託された物の中に、
古美術品のような物がいくつか混じっているのは覚悟していた。
「だが、これはなあ……」
そんなに年代物ではなさそうな刀を前に、龍彦は溜め息を吐く。
「おい、和彦!」
息子を呼ぶと、思った以上に苦汁切った表情の和彦が襖を開けてきた。
「何?」
「お前、刀の手入れはできるのか?」
「一応」
「売るのと持っておくのとどっちがいいと思う?」
「そんなにお金にならなくてもいいなら売れば。別にそんな名刀でもないし」
「そうか……」
「話はそれだけ?」
「うむ」
「なら、俺叔父さんの家行ってくるから」
非難げな声音で告げると、そのまま踵を返して行ってしまう。
今日の法事に、弟の涼を呼ばなかったことを快く思っていないのだろう。
龍彦としても、呼ぶべきか迷った。
だが、他の親戚たちの手前、前科の付いた者を呼ぶ訳には行かなかったのだ。
「そう言えば、この刀の手入れは親父と涼がやっていたっけな」
腕を組んだまま、刀を見つめる。
黒い鞘に納まったそれを、龍彦はなかなか好きにはなれなかった。
「あいつにやるか」
涼の方が然るべき方法で保管または売買してくれるだろう。
そこまで思ったところで、肝心なことを思い出した。
「刀の登録し直したばっかりだったな……」
深く考えず所有者を自分に変更してしまっていた。
「手入れは和彦に任せるか」
いずれ和彦の物になるのなら、父も涼も許してくれるだろう。
「また厄介な物ばかり遺ったもんだ」
龍彦は渋面を作り、刀を眺め続けた。
了
そんなに年代物ではなさそうな刀を前に、龍彦は溜め息を吐く。
「おい、和彦!」
息子を呼ぶと、思った以上に苦汁切った表情の和彦が襖を開けてきた。
「何?」
「お前、刀の手入れはできるのか?」
「一応」
「売るのと持っておくのとどっちがいいと思う?」
「そんなにお金にならなくてもいいなら売れば。別にそんな名刀でもないし」
「そうか……」
「話はそれだけ?」
「うむ」
「なら、俺叔父さんの家行ってくるから」
非難げな声音で告げると、そのまま踵を返して行ってしまう。
今日の法事に、弟の涼を呼ばなかったことを快く思っていないのだろう。
龍彦としても、呼ぶべきか迷った。
だが、他の親戚たちの手前、前科の付いた者を呼ぶ訳には行かなかったのだ。
「そう言えば、この刀の手入れは親父と涼がやっていたっけな」
腕を組んだまま、刀を見つめる。
黒い鞘に納まったそれを、龍彦はなかなか好きにはなれなかった。
「あいつにやるか」
涼の方が然るべき方法で保管または売買してくれるだろう。
そこまで思ったところで、肝心なことを思い出した。
「刀の登録し直したばっかりだったな……」
深く考えず所有者を自分に変更してしまっていた。
「手入れは和彦に任せるか」
いずれ和彦の物になるのなら、父も涼も許してくれるだろう。
「また厄介な物ばかり遺ったもんだ」
龍彦は渋面を作り、刀を眺め続けた。
了
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