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25 チョコレート (稲村ふみ)

written by 高木一

「お帰りなさいませ」
「ただいま」

 未四郎(みしろう)が帰宅するなり、ん、と鞄を突き出してきた。ふみはいつものようにそれを受け取る。
 未四郎の後をついて行くと、夫は前を向いたままぼそっと呟く。

「土産がある」

 ふみは立ちどまり、鞄を開けた。中には包装紙に包まれた長方形の箱が入っている。

「お菓子ですか?」

 老舗菓子店の名が記された包装紙を見てふみは尋ねた。

「貯古齢糖(ちょこれいと)という菓子だ。珍しい物らしいから旦那様とお嬢様にも召し上がっていただきたくてな」
「そうですか。では明日旦那様とお嬢様お渡しいたしますね」
「あぁ、頼む」

 満悦そうな顔で頷いたあと、未四郎は部屋着に着替えに行ってしまった。ふみはそんな夫の後ろ姿を眺めながら、くすりと小さく笑う。

「お嬢様が余ったものをわたしたちに下賜してくださると知っていての確信犯ね」

 自分が食べたいとは決して言わないが、未四郎が実は甘党だということをふみは知っている。きっと、今回も召し上がってもらうために買ってきたと大義名分を掲げているが、本音では自分が食べたかったのだろう。もしかしたら麻紘もそのことに気がついているのかもしれない。だからこそ自分たちが食べる分以外をいつも下賜してくれているのではないだろうか。ふみはそんなことを想像しながら夫のあとを追いかけた。

〈了〉

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