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26 着物 (多部菊花)

written by 高木一

 想田家の座敷では、所狭しと着物が置かれていた。菊花は娘のアカネと一緒に、数日後に控えた麻紘の見合いの日に着る着物を選んでいる最中だ。

「本当でしたらアカネさんのお古ではなく、生地選びからするべきでしたのに……」

 前もって着物の用意だけでもしておけばよかった。自分が推し進めたためとはいえ、菊花は眉間にしわを寄せ悔やむ。

「明後日お見合いなんだから仕方ないわよ」
「そこは私の失態ですわね。ごめんなさいね、麻紘さん。よいお話でしたから私も舞い上がってしまいましたの」

 菊花が謝罪すると、麻紘が小さく首を横へ振る。

「いえ、あの、私は」
「麻紘さんは気に入ったお着物などあって?」

 自分が着るものなのだから率先と選べばいいのに。何を遠慮しているのだろうか。菊花は、部屋の隅で縮こまっている麻紘を手招きした。

「あ、これなんていいんじゃないかしら?」

 アカネが示した着物は、生成地に緑の葉と大きな白椿と赤椿が施されている銘仙着物だった。菊花はふみに目配せをし、その着物を麻紘へ宛がうよう促す。

「だから私はお見ぁ」
「椿の花も大きくていいですわね」

 麻紘が何か言った気がしたが、ちょうど菊花がそれを遮ってしまいよく聞き取れなかった。だが、麻紘の話を聞く前にアカネが口を開く。

「でしょう。それでこの半襟をつけるの」

 アカネが自信満々に差し出してきたのは、着物と近い色合いの生地に臙脂色の縞模様の半襟だった。わが娘ながら趣味がいい。菊花は感心しながら賛同する。

「いいですわね。それでしたら帯はこちらの名古屋帯がよろしいわね」

 赤や緑があると言え、淡い色が多い着物だ。黒の帯がキュッと引き締めてくれるだろう。菊花は近くにある黒地に象牙色と曙色の花の名古屋帯を手に取り、掲げて見せる。

「お母様さすがだわ!」

 娘の称賛に菊花はまんざらでもない笑みを浮かべた。

〈了〉

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