29 自転車 (想田麻紘)
written by 高木一
麻紘が庭で畑仕事をしていると蔵の方から何かが倒れる大きな音が聞こえてきた。
「何? 何の音?」
麻紘は慌てて音がした方へ向かう。
「父様!」
「イテテ……」
「どうしたの? 大丈夫?」
麻紘は地面に倒れている荊芥へ近づいた。
「いやぁ、乗れるかと思って乗ってみたんだけど転んじゃったよ」
一見したところ大きな怪我はなさそうだ。麻紘は、ハハハと笑いながら身を起こす父の姿に胸をなで下ろす。再度、荊芥の全身を見つめ、目を見開いた。自転車が父の上に乗りかかっていたのだ。
「父様どうしたんです、こんな高級品! ま、まさか……」
万年金欠の我が家にそのような物を買うお金などないはずなのに、どこかで買ってきたのだろうか。麻紘は血の気が引いていくのわかった。
「これ? 蔵にあったから出してみたんだぁ」
「へ? 蔵?」
聞こえてきた答えに麻紘は頓狂な声をあげた。
「うん。乗れたら麻紘にあげようと思ったんだけどぉ」
何度となく蔵に入ったことはあるが自転車などあっただろうか。麻紘が逡巡している間に、荊芥が自転車と一緒に立ち上がった。
「今のでハンドルが曲がっちゃったみたいだね。ごめんよ麻紘」
しょんぼりと肩を落とす父の姿に麻紘は我に返る。
「い、いいわよ。そんな高価な物、私には必要ないわ! それより父様、怪我はないの? やだ、手を擦りむいてるじゃない!」
「え? あ、本当だ」
壊れてしまった自転車をどうするかはあとで決めればいいだろう。まずは荊芥の治療が先だ。麻紘は父の腕を取り、土を落とすため水場へと急いだ。
〈了〉
麻紘が庭で畑仕事をしていると蔵の方から何かが倒れる大きな音が聞こえてきた。
「何? 何の音?」
麻紘は慌てて音がした方へ向かう。
「父様!」
「イテテ……」
「どうしたの? 大丈夫?」
麻紘は地面に倒れている荊芥へ近づいた。
「いやぁ、乗れるかと思って乗ってみたんだけど転んじゃったよ」
一見したところ大きな怪我はなさそうだ。麻紘は、ハハハと笑いながら身を起こす父の姿に胸をなで下ろす。再度、荊芥の全身を見つめ、目を見開いた。自転車が父の上に乗りかかっていたのだ。
「父様どうしたんです、こんな高級品! ま、まさか……」
万年金欠の我が家にそのような物を買うお金などないはずなのに、どこかで買ってきたのだろうか。麻紘は血の気が引いていくのわかった。
「これ? 蔵にあったから出してみたんだぁ」
「へ? 蔵?」
聞こえてきた答えに麻紘は頓狂な声をあげた。
「うん。乗れたら麻紘にあげようと思ったんだけどぉ」
何度となく蔵に入ったことはあるが自転車などあっただろうか。麻紘が逡巡している間に、荊芥が自転車と一緒に立ち上がった。
「今のでハンドルが曲がっちゃったみたいだね。ごめんよ麻紘」
しょんぼりと肩を落とす父の姿に麻紘は我に返る。
「い、いいわよ。そんな高価な物、私には必要ないわ! それより父様、怪我はないの? やだ、手を擦りむいてるじゃない!」
「え? あ、本当だ」
壊れてしまった自転車をどうするかはあとで決めればいいだろう。まずは荊芥の治療が先だ。麻紘は父の腕を取り、土を落とすため水場へと急いだ。
〈了〉
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