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32 紅 (岩崎とし)

written by 高木一

 としは鏡台の前に座り、鏡かけてある布を取った。そして白髪の多くなった髪をくしけずる。丸髷にし簪をつければ朝の準備はおしまいだ。

(おかしなところは……ないようだね)

 鏡と手鏡で確認したあと、手鏡をしまう。しかしいつもだったら引っこむはずの引き出しが今日に限って中へ入っていかない。

「おかしいねぇ? どうしたんだ?」

 としは頭をかしげながら、引き出しを引っぱった。手鏡が箱の上に乗っていたせいで、突っかかってしまっていたようだ。としは奥にしまっておいた箱を取り出す。

「そういやぁ、これを使ったはいつだったかねぇ」

 懐かしくなって箱を開けると、白いお猪口が出てきた。ひっくり返すと中には紅が塗られている。貰った当初よりは紅色が強いが、それでも未だに玉虫色と呼べる色が残っていた。

「せっかく買ってもらったのにつける機会がトンとないからねぇ」

 それはある日突然史郎から贈られた紅だった。祝い事があったわけでも、いいことがあったわけでもない。なぜくれたのか。未だにわからないが、とても嬉しかったことを覚えている。
 としはしばらくの間玉虫色の紅を見つめ、小指に紅をつけた。

「たまには使ってあげないと父ちゃんが泣いちまうかしれないしねぇ」

 誰もいない部屋で言い訳を口にしながら、唇に紅を乗せる。ふと顔を見上げると、普段より紅く染めれられた唇と同じくらい赤くなった自分の顔が鏡に映っていた。

〈了〉

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