32.紅 <平岩文人(ひらいわふみと)>
written by 朝川 椛
文人は自分の画風に満足してはいない。
ありとあらゆる紅色を使い、キャンバス一杯に塗りたくる。
そうまでしても表現したいのはただ1つ。
「八百比丘尼」である。
文人は自分の画風に満足してはいない。
ありとあらゆる紅色を使い、キャンバス一杯に塗りたくる。
そうまでしても表現したいのはただ1つ。
「八百比丘尼」である。
文人は福井県生まれの東京育ちだ。
だからか知らないが、
幼い頃から小浜市に残る八百比丘尼の伝説に興味を持った。
果ては遥々隠岐島まで八百比丘尼を捜しに向かうほど、
「八百比丘尼」の魅力に取り憑かれていた。
そうだ。
そこで出会ったのだ。
己の愛しき恋人、須永由江に。
由江に会い、彼女が八百比丘尼の一族だと言われた時、
運命だ、と思った。
だが、それでもまだ八百比丘尼を表現しきれていない。
「紅が足りないんだ。紅が、紅が!」
文人は絵の具だらけになっている机に拳を叩きつける。
どうしたらいいんだ。どうしたら……。
「そうだ。由江に相談しよう」
そうすればきっと、何よりも紅色が手に入るはずだ。
文人は由江の笑顔を思い浮かべ、椅子に腰掛ける。
それから、幸せな気分で目を閉じた。
了
だからか知らないが、
幼い頃から小浜市に残る八百比丘尼の伝説に興味を持った。
果ては遥々隠岐島まで八百比丘尼を捜しに向かうほど、
「八百比丘尼」の魅力に取り憑かれていた。
そうだ。
そこで出会ったのだ。
己の愛しき恋人、須永由江に。
由江に会い、彼女が八百比丘尼の一族だと言われた時、
運命だ、と思った。
だが、それでもまだ八百比丘尼を表現しきれていない。
「紅が足りないんだ。紅が、紅が!」
文人は絵の具だらけになっている机に拳を叩きつける。
どうしたらいいんだ。どうしたら……。
「そうだ。由江に相談しよう」
そうすればきっと、何よりも紅色が手に入るはずだ。
文人は由江の笑顔を思い浮かべ、椅子に腰掛ける。
それから、幸せな気分で目を閉じた。
了
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