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35 牛乳 (小山八十八)

written by 高木一

 会社帰り、小山は先輩方に連れられミルクホールへ向かった。学生の頃はよく来ていたが社会人になってから初めてだ。 久々に入る店内には、自分たちのような仕事帰りの客もいたが学生の姿も多くなかなかの賑わいだった。
 小山が懐かしさにキョロキョロ見回していると、着物の上に白いエプロン纏った女給がやってくる。

「お姉さん! 俺、牛乳とジャムバターつきの食パンね」
「私は紅茶とチョコレートを」

 次々に注文する先輩たちの横で、小山は慌てた。給料日前だから一番安い3銭のコーヒーにするべきか。だが、久しぶりのミルクホール。牛乳も捨てがたい。メニューを見つめながら逡巡していると、村上に肩を叩かれる。

「小山はどうする? 今日は俺らのおごりだから遠慮なんてすんなよ」
「え! あ、ありがとうございます?……」

 突然のおごり発言に小山は戸惑いながらも再びメニューへ視線を落とした。

(遠慮せずにって言われたけど高いものを頼むのも悪い気がするし、かといって遠慮して安いものを頼めば角が立つよな……。あぁーどうすればいいんだ)

 小山は何を選んでいいのかわからず頭を悩ませた。すると手元にあったメニューが抜き取られる。小山は驚き、取られた先を見た。にこりとほほ笑む松井と目が合う。

「小山は甘い物って平気? お腹はすいてる?」
「あ、はい。好きです。それに腹も減っています」
「それじゃ、このミルクセーキとジャムバターつきの食パンをお願いします」
「!」

 小山が仰天している間に女給がかしこまりました、と言い去って行った。値段を見ていなかったのだろうか。小山は小声で先輩方に指摘する。

「ミルクセーキなんて一番高いのにいいんですか? しかも食パンまで」
「いいから、気にすんなよ。美味いもん食ったら元気になるだろう」

 村上が手を振りカラカラ笑った。

「……ありがとうございます」

 今日の営業はことごとく失敗続きで密かに落ちこんでいたのだ。顔に出していないつもりだったが、彼らにはバレていたらしい。小山は滲み始めた涙を見せないよう俯きながら、先輩方の優しさに感謝した。

〈了〉

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Author:やどりぎ
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オリジナル小説を書いています。

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