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36 穴 (想田荊芥)

written by 高木一

 その日、荊芥は縁側でぼけーっと庭を眺めていた。

(いい天気だなぁ)

 幼い頃、想田家には祖父や両親、兄や姉、そして漢方を習う漢方医の卵たちが大勢いた。今は麻紘が世話をしている畑も弟子たちの仕事で、その当時から薬草の根に興味を持っていた荊芥は彼らの畑作業を近くで見るのが日課だった。

(懐かしいなぁ)

 荊芥は生薬が生い茂る畑を見ながら昔を懐かしむ。あれは年の近かった稲村未四郎の弟、未八郎が住み込みで漢方を学び始めた頃だった。

「未八郎さん! その穴塞がないで!」

 荊芥は、当帰の収穫をし終え穴を塞ごうとする未八郎の手を止めさせた。じっくり掘り起こされたばかりの土の中を観察しようとしゃがみ込む。

「荊芥坊ちゃん、落とし穴で作られるのですか? ここは畑の中ですからダメですよ」

 未八郎から呆れ半分に宥められ、荊芥はムッとする。

「違うよぉ。ほら見て、小さな根っこが残ってるでしょう。これは当帰の根っこかなぁ? それとも他の草の根かなぁ? あ、みみずが顔を出してる! いい土なんだねぇ」

 なんの変哲もない土なのに、これほどの発見があった。荊芥は胸をときめかせる。

「荊芥坊ちゃんは生薬よりも土に興味がおありなのですか?」
「土って言うか根っこかなぁ」
「根っこ、ですか」
「うん。だって水分と栄養分を葉や花に送るために土の下で石があろうが根を張り巡らすんだよ。すごいよねぇ」

 植物なのだから当たり前のことなのかもしれない。だが、荊芥とっては生き残るために必死になる姿が、とても美しく見えたのだ。あれから数十年経った今でもそれは変わらずにいる。

(あの畑の生薬掘り返したら麻紘に怒られちゃうかなぁ。収穫しないでまた埋めればバレないかなぁ)

 そうと決まれば早速動き出そう。荊芥は麻紘に見つからないように道具を取りに行くのだった。

〈了〉
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