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38 闇 (小山八十八)

written by 高木一

「いいお客様だったなぁ」

 小山は先ほどまで会話していた老人のことを思い返した。
 朝から新たな顧客を獲得しようと勇んで会社を出たものの、成果は芳しくなく。一度会社へ戻らなくてはならない時間となり、最後の1件とばかりに薬屋へ飛び込んだ。結果、商談は見事成功。湿布薬を試しで購入してもらうことができた。

(諦めずに粘った甲斐があったなぁ)

 小山は充足感を胸に抱きながら駅までの道のりを進む。

「それにしてもすっかり遅くなってしまったな」

 そこの家人はとても話し好きで、商談後も話が止まらなかったのだ。やっと暇を告げた頃には辺りはすっかり暗くなっていた。まだ街灯がない地域だったようで、小山は月明かりを頼りに歩く。ときおり雲が流れ、暗闇の中を進む。そんな時に限って村上から聞いた怪談話が脳裏をよぎる。

『一人の男が闇夜の中を歩いていると後ろから足音が聞こえてきた。不審に思った男は足を止め振り返る。しかしそこには誰もいなかった。気のせいだったのかと、男は再び歩き出す。するとまた同じように背後からカツ、カツと』

 ちょうどその時だ。ガサリと垣根が揺れる。

「ひっ!」

 小山はビクリと肩を竦め、恐々と音がした方へ顔を向けた。

「にゃぁーぉん」
「ね、猫……」

 飼い猫なのだろうか。月明かりの下、白と黒の斑猫が逃げることもなくすり寄ってくる。

「お前も家に帰る途中だったのか?」

 小山はしゃがみ込み、猫の頭をなでながら安堵の息を吐いた。

〈了〉

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