38.闇 <須永いすず(すながいすず)>
written by 朝川 椛
「お前の心には闇が見える」
「お前の心には闇が見える」
亡くなる前、入婿であった夫が口にした言葉だ。
いすずはこの言葉を思い出す度、胸に鋭い痛みを感じる。
できることなら泣きたい。
自分だってなりたくてなったわけではない。
ただ家が、この古いだけの家柄が、
自分たち須永の血をこの地へと縛りつけているのである。
「貴方がどう思おうとも、私はこの家を守らねばならぬのです」
仏壇に置かれた写真をひたと見据えながら呟くと、
しばらくぶりに遊びに来ていた曾孫の瑠奈が、声をかけてきた。
「一体何の話? 怖い顔して」
「なんでもありませんよ。お前は何にも心配しなくていいの。
いいわね?」
「だから、何の話?」
「いいから、約束してちょうだい。須永の家を頼みますよ」
「はいはい」
「はい、は1回!」
「はーい」
溜め息を吐いて廊下へ出ていく曾孫の後ろ姿を眺めながら、
いすずの心はまたドロドロとした暗い液状の何かへと沈んでいくのだった。
了
いすずはこの言葉を思い出す度、胸に鋭い痛みを感じる。
できることなら泣きたい。
自分だってなりたくてなったわけではない。
ただ家が、この古いだけの家柄が、
自分たち須永の血をこの地へと縛りつけているのである。
「貴方がどう思おうとも、私はこの家を守らねばならぬのです」
仏壇に置かれた写真をひたと見据えながら呟くと、
しばらくぶりに遊びに来ていた曾孫の瑠奈が、声をかけてきた。
「一体何の話? 怖い顔して」
「なんでもありませんよ。お前は何にも心配しなくていいの。
いいわね?」
「だから、何の話?」
「いいから、約束してちょうだい。須永の家を頼みますよ」
「はいはい」
「はい、は1回!」
「はーい」
溜め息を吐いて廊下へ出ていく曾孫の後ろ姿を眺めながら、
いすずの心はまたドロドロとした暗い液状の何かへと沈んでいくのだった。
了
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