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39 薬 (想田麻紘)

written by 高木一

 麻紘は長屋門の二階で作業をしていた。部屋の中はさまざまな生薬の匂いが充満している。ここでは漢方薬の精製や乾燥していた生薬の後処理をしたり、岩崎としや千葉みさをといった近所の人ととの雑談場としても活用している。なので、家での雑務や学校が終わると麻紘は真っ先に長屋門へ向かう。女学校が休みの日は、時間に余裕がある分いつもよりも多めに作業できて嬉しいくらいだ。

「ふっふふーん。いい感じに乾燥してるわ」

 麻紘は先日乾燥させておいた当帰(とうき)の根を鼻歌交じりに細かく刻んでいた。当帰は補血、活血、止痛などの効能があり、貧血、月経不順、月経痛、腹痛に効果がある漢方薬の中に用いられている。

「同じ生薬を使っていても混ぜる生薬を変えるだけでその人にあった薬を精製することができるんだからすごいなぁ、やっぱり」

 だが、それが漢方の難しさであり、興味がつきないところだ。

「よし! このくらいでいいわね」

 麻紘は階下へ降り、百味箪笥に刻んだ当帰をしまった。
 漢方薬を作れるようになった頃は自分たち家族にしか飲ませなかった。曾祖父たちが残した本の通りに作ったとはいえ、素人のそれも子供が作った漢方薬など他人に渡せるはずもない。しかしいつしか、ふみを介して近所の人に広まり、今では西洋医学を苦手としている近所の人たちへ無償で漢方薬を渡すほどにまでなっていた。

「今日は誰かくるかなぁ?」

 麻紘は漢方薬を処方している近所の人の顔を思い浮かべる。そして誰が来てもいいように百味箪笥の引き出しを確認し始めるのだった。


〈了〉

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